経営者の危機管理 過去事例2
業務改善
組織強化
経営者・経営の有事対応
経営計画
Step1
ある高齢の男性から私たちに、コンサル相談の問い合わせがありました。「私の知り合いの社長が急逝し、まだ年の若い奥さんが急遽、社長を引き受けることになったんです。会社は突如、ボスをなくして社内が大パニックになっていまます。力を貸してもらえませんか?」とのことでした。
この会社はこれまで専属の下請会社を多数抱え、大手ゼネコンから専門業者として毎年25億円の工事を受注していました。ただ、これまで亡くなった前社長からの仕事だからと言うことで忠誠を誓って協力してきた下請業者が大多数でした。これらの下請業者が抱える専門職人は総勢250名以上。ボスがいなくなった不安から「縁の切れ目」との思いが大なり小なり芽生え、関係を絶つ業者もさみだれ式に出てきました。
つまり、前社長急逝で会社への求心力が低下し、取り付け騒ぎ(金目のものを持って立ち去る、過剰請求を行い査定を認めさせて取り立てるなど)の懸念があり、このままでは空中分解をしかねないとのことでした。社長は、「私はなんとか会社を立て直したいんです!」とのこと。「逃げ場はない。やるしかないんです!」という悲痛な叫びであり、並々
ならぬ決意を感じました。
Step2
時はコロナ禍で、緊急事態宣言が発令された翌日が最初の訪問日でした。会社に伺うと大変な状況で会社が緊急事態そのものでした。
「今時まさか…」の話ですが、監督職社員へのキックバック(一部を謝礼として支払い)も疑われました。要は下請業者が前社長の急逝で不安になり、火事場泥棒のような取り付け騒ぎが発生したのです。この取り付け騒ぎのため前月は1億円の支払い超過。私たちが駆け付けた当月も更に1億数千万円の支払い超過の請求書がきていました。
ここは踏ん張りどころ。私たちは過去の下請業者の業務日報を詳細に調査しました。「請求書の出来高が過剰でないか」「作業人数に水増しはないか」などを確認しました。すると、意味不明な数量増加や実態のない作業人数の割増などが多数発見されました。
証拠(エビデンス)をつかんだ私たちは下請業者との価格交渉に立ち会い、強い口調の「払ってくれよ!」と言った挑発に乗らず落ち着いて対応するのみ。こうして、過剰請求は、1億数千万円の請求額のうち、相当額(50%以上)を減額し、資金の不正な流出を抑えることができたのです。
資金が回らないと事業が続かないので、次は銀行交渉です。私は、社長に同行して、お付き合いのある地元の信用金庫の支店に伺いました。
「今月も1億円お借りしたいんです。何とか…」と社長は支店長に哀願ともいえる申し入れをしたのでした。支店長はこれに対し難しい表情になり、「先月もお貸ししてますしね…」と、にべもなくお断りされてしまいました。「いよいよダメか…」社長からはため息がもれました。私は、「そうはいっても、陽はまた昇る、明けない夜はありません。資金繰りの見直しからもう一度やりましょう」と社長を元気づけました。
翌日、支店長から私に電話がありました。「昨日は融資をお断りしました。それは社長が交代してからいきなり毎月大きな資金需要が発生しているので、危機を感じたからです。でも、コンサルさんがついて管理がこれからしっかりしてくると思います。そこで提案ですが、資材センターの土地の担保提供をお願いできませんか? そして、資金繰り表もあまりきつめに見ずに受注努力を見込んで売上アップを織り込んでもらえますか? そうすれば本部の稟議(りんぎ)も通りやすいので…」とのことでした。
「生き延びた!」思わず心の中で叫びました。このことを社長に伝えると「ありがとうございます! 恩にきます!」とのこと。別段、私が何かしたわけではありませんが、コンサルを支援につけ、相応の対応が評価されたことは間違いありません。
Step3
この専門工事業は材料持ち、つまり材工で工事を請け負うことで大きな利益につながります。前社長の時に、資材センター向きの土地を探し、1000坪はゆうに超えている今の資材センターの敷地を手に入れました。
この資材センターに材料をストックして、自社製作による加工材料を自前で提供して、材工(材料提供と工事の両方を請け負うこと)による大型受注を実現できるようになっていました。ところが前社長がスカウトしてきた資材センター長は、資材管理を一人で采配し、自分の好き勝手に管理を行っていました。
① 出入庫チェック…運転手に積荷の数量を数えさせて伝票に記入(要はノーチェック)
② 貸与資材の破損チェック…手が回らないのでやっていない。人手不足でムリ
③ 資材・仮設材の在庫管理…在庫を記録する時間がない。月末棚卸の数量チェックのみ
「改革」開始を察知してか、その後すぐセンター長は退職。材料横流しやスクラップ売却収入不正取得などが発覚する前に退散したのです。
それから、私たちは社長と「資材センターの大改革」を断行しました。まず、1000坪
以上の大きな敷地を最大限に活用するために、
① 車両の走路と人の安全通路を白線引き。
② 場内レイアウト図を作成し、資材を配置決めし、不良品や廃棄物を一斉に場内搬出
③ 大型車両の転回路や材料の検収所・資材洗浄場を作成
1000坪のゴミの山であった資材センターから不要材を全撤去、大型トラック走路や
安全通路を整備し、資材は種類別に区分して取り出しが容易な地番管理を開始。理想的な
資材センターに生まれ変わりました。
Step4
管理が構築されても仕事が確保できて初めて事業として成り立ちます。私が以前在籍した大手建設会社の下請業者の社長他多数の営業ルートを紹介しました。社長はそれら紹介先に足しげく通い、熱意を見せて徐々に直接の請負工事が受注できるようになりました。
また、社長は経理出身で現場の仕事はわからずコミュニケーションに困っていました。ある時、現場の親方から「明日から現場に入るから」との電話連絡があるや否や「作業着に着替えていくから、私に道具の使い方から仕事教えて!」と叫んだのでした。
仕事を身をもって経験し事業を知ろうというのです。親方は社長から頼まれ「いやいや結構」と言わず、好意的に現場作業を手ほどきしてくれました。
取り付け騒ぎの火事場を切り抜け、前センター長に属人化していた資材センターを大改革。営業や事業に突撃で体当たりする姿勢は、人の信頼につながる勇気と行動といえます。
どんな経営の厳しい局面にあっても希望を捨てず最後までやり切る精神で経営立て直しに取り組む、そんな精神が難局を打開し問題解決を果たすトリガー(引き金)になったといえます。
弊社代表著書「中小企業を強くする10のキーワード しくみづくりのフレームワーク」4章 10のキーワード活用事例(P.164-171)より




